企業変革力―ダイナミック・ケイパビリティ論

 今、日本経済の「失われた30年」から大きな潮目の変化にあると言われています。円安、物価高、金利上昇、エネルギー価格、人件費など、中小企業は厳しい経営環境の中にあり、世界でも不確実性が著しく高まっています。このような課題に取り組むにあたって、経営学の観点から注目されている戦略経営論が「ダイナミック・ケイパビリティ論」です。日本語に訳すと「企業変革力論」となります。

 ダイナミック・ケイパビリティ論は、カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール教授のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱されました。ティース氏によると、企業のケイパビリティ(能力)は、「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」と「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」の2つに分けることができます。オーディナリー・ケイパビリティとは「ものごとを正しく行うこと」であり、ダイナミック・ケイパビリティとは「正しいことを行うこと」です。

 ティース氏は、「正しいことを行う」能力であるダイナミック・ケイパビリティを、さらに次の3つの能力に分類しています。(1)感知(センシング):脅威や危機を感知する能力。(2)捕捉(シージング):機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力。(3)変革(トランスフォーミング):競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力の3つです。

 難しく感じますが、3つの能力を使って分析し、今までとは違う感覚や状態、環境などの「ズレ」や「ギャップ」をどう変革につなげていくか。同友会で言えば、経営理念やビジョンとの「ズレ」や「ギャップ」をどう埋めるかという判断的な要素がオーディナリー・ケイパビリティであり、その「ズレ」や「ギャップ」を再構築して、企業の変革につなげるような決断や実践を求められるのがダイナミック・ケイパビリティだと思います。そういう意味では、同友会が提唱する経営指針の実践と『企業変革支援プログラムVer.2』を活用しての企業づくりは、ダイナミック・ケイパビリティ論に沿った取り組みだと言えるかもしれません。

 『経営指針の成文化と実践の手引き』の81~82ページの「SWOT分析シート」「クロスSWOT分析シート」、『企業変革支援プログラムVer.2』の12ページの「エントリー自己診断」、77ページの「変革項目優先順位シート」を活用して、経営戦略を再構築のきっかけにしてはいかが でしょうか?

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「中小企業家しんぶん」 2024年 6月 15日号より