【あっこんな会社あったんだ!】障害者雇用
誰もが「必要とされている」と実感できる職場へ
TIY(株) 代表取締役 小出晶子氏(愛知)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「障害者雇用」をテーマに、小出晶子氏(TIY(株)代表取締役、愛知同友会会員)の実践を紹介します。

 1970年、小出氏の父がタイヨー機械(株)を創業。2009年にTIY(株)と名称を変え、自動車部品、事務用機械部品の組み立てを事業として行っています。同社の強みは、簡単な組み立て治具を工夫することにより、手作業+αの工程で誰でも働きやすい環境にしていることです。

 小出氏は元々歯科衛生士。家庭の事情で会社のサポートを始めましたが、両親の仕事を子どものころから見ていたため、現場作業に抵抗はありませんでした。

 しかし、両親と会社の方向性を話すとけんかになり、閉塞感を感じることもありました。そんな時、同友会を紹介され、いろいろな人と関わりたいと入会。異業種のさまざまな経営者と交流することで、自分の考えをまとめる訓練になったと言います。

人手不足解消をきっかけに

 小出氏は約30年前に障害者雇用を始めました。当時、さまざまな機械の回転部分に使われているベアリングの組み立ての仕事が多く、扶養の範囲で働くパートさんが多いことから、出荷用トレイに製品を並べる人材が不足していました。多品種小ロットの生産体制のため機械化に向かず、人の手が必要です。求人を出しても、単純作業のため来てくれる人がおらず、誰でもいいからやってくれる人がほしいという状況でした。

 歯科衛生士時代、障害者施設の歯科診療補助などを経験していた小出氏は、学生と一緒に施設の実習見学などをしていました。その時見た障害者の機能訓練では、箸で豆をつかむといった作業をしており、訓練に意味があるのか? これで社会とのつながりができるのか?という思いを抱きました。

 そのような経験も踏まえ、トレイに製品を並べるという単純作業であれば障害者でもできると考え、特別支援学校に相談。支援学校の2人の新卒生に同社に出向してもらい、当時の時給の3分の1程度の工賃を支払っていました。しかし、健常者と同じ仕事をしているのに低賃金であることに疑問を感じ、最低賃金まで引き上げました。

障害者と働くことは普通のこと

 現在、同社では13人の障害者が働いています。身体・精神・知的障害者が健常者と共に働いており、20年以上勤めている人もいます。

 障害者の採用については、支援学校からの紹介、ハローワーク、同友会会員からの紹介のほか、稲沢市地域自立支援協議会の事業所向け企業見学会で就労移行したい人の打診を受けたこともあります。

 障害者も働きやすくする工夫として、連絡をスムーズに取れるよう連絡帳を使い始めたほか、誰にでも使いやすい道具をつくりました。部品を差し込むことで常に同数の部品を仕分けられる棒状の道具や、1回で定量のボールをすくえるスプーンなどを熟練の機械設計者が生み出しました。業務を細分化し、1人1工程に集中してもらうことで、健常者と同じ生産性を実現しています。

今後の課題と展望

 現在は自動車用部品を取り扱っていますが、将来性が不透明なため、新しい仕事を増やしていきたいと考えています。また、定年がないため雇用の内訳は高齢者が3分の1となっていることに加え、知的障害者が加齢によりそれまでできていたことができなくなってきているという現状があり、製造ラインに改善できる部分はないかとスタッフと共に試行錯誤しています。

 小出氏は「障害のある方たちは自分が役に立っているという実感をなかなか得られてこなかった方が多いです。ここで自分が必要とされていると感じられる環境を整えていくことが私の役目だと思っています」と語ります。

 障害のあるなしに関わらずその人の特性を生かすことは「人間尊重の経営」そのものです。どんな形であれまずは障害者について知る、関わることで、初めて見えてくるものがあります。生産体制の変更により、障害者のスタッフに自動車の製造ラインに移ってもらった際、彼らに仕事がこなせるか不安に思っていた小出氏でしたが、健常者と同じ仕事ができており、自分が思っているより彼らはいろいろなことができると気づいたと言います。

 「何のために、誰のために障害者雇用をしているのか」をよく考えているという小出氏。TIYは、これからも当たり前に障害者が一緒に働く会社として地域に根差して発展していきます。

会社概要

設立:1970年
事業内容:自動車部品、事務用機械部品の組み立て
社員数:48名
URL:https://www.tiy.jp/

「中小企業家しんぶん」 2024年 6月 15日号より