実効性のある「構造的な価格転嫁」政策を

 

政府は6月21日、「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」(骨太方針2024)を閣議決定しました。そこでは「『コストカット』が続いてきた日本経済を成長型の新たなステージへと移行させていくことが、経済財政運営における最重要課題」との認識を示し、「新たなステージへの移行のカギとなるのは、賃上げを起点とした所得と生産性の向上である」と強調。「サプライチェーン全体で適切な価格転嫁が行われるよう、官民双方で取組を更に強化する」としています。

 具体的には、「サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる『構造的な価格転嫁』を実現する」として、独占禁止法の執行強化、下請Gメン等を活用した下請法の執行強化、下請法改正の検討、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の周知徹底などを掲げています。

 このような価格転嫁の促進などの公正取引を実現する政策を強化する方向は、同友会が長年政策提言で求めてきたものとも共通するものであり、望ましい動きと言えます。

 一方、中小企業の価格転嫁率をみると46・1%となっており、転嫁はまだまだ進んでいません(中小企業庁2024年3月「価格交渉促進月間フォローアップ調査報告」)。

 また欧米と比べても日本の価格転嫁は進んでいないことが指摘されています。財の価格転嫁率は日本72%、欧州103%、米国78%、サービスの価格転嫁率は日本29%、欧州70%、米国100%といずれも日本が最も低くなっています。(三菱総合研究所「MRIエコノミックレビュー・デフレ脱却への重要な関門 サービス業の価格転嫁が浸透するか」政策・経済センター森重彰浩氏、菊池紘平氏。2023年10月23日)

 日本経済を「成長型の新たなステージへと移行」させるには、価格転嫁対策など公正取引の実現をめざした政策を一層強化することが求められていると言えます。さらに、日本が諸外国と比較して価格転嫁率が低い状況を踏まえ、諸外国の現状・政策などを研究し、政策立案に生かしていくことも重要であると言えます。

 諸外国の取り組みの一例として、中同協が20219年5月に実施した韓国視察で学んだ主な点は次のようなことでした。

 (1)韓国では2017年に中小企業庁が格上げされて中小ベンチャー企業部(省)が設置され、中小企業政策に力を入れている。(2)基幹産業や輸出大企業中心の経済から人を中心とした経済にパラダイム転換をしようとしており、そのためにも中小企業の活性化が不可欠であるとしている。(3)中小企業政策の1つとして「大企業と中小企業の不公正な取引の是正」を重視しており、公正ではない取引で中小企業が損害を受けた際にその3倍の損害賠償ができる「懲罰的損害賠償制度」が2019年7月から施行された。(4)中小企業と大企業と格差を解消するため中小企業の賃上げや雇用維持のため社会保険料負担の軽減など4つの支援施策を実施している、等々。

 日本の企業数の99・7%、雇用の約7割を担う中小企業の振興を進めていくことこそ、日本経済が「成長型の新たなステージ」に移行する道です。実効性のある「構造的な価格転嫁」をはじめとした中小企業政策の抜本的強化が今こそ求められています。

(KS)

「中小企業家しんぶん」 2024年 7月 15日号より