【あっこんな会社あったんだ!】市場創造 
「ご家族のお心に寄り添う」サービスの追求が新しいビジネスモデルに 
(株)こころ 代表取締役 堀口こみち氏(兵庫)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「市場創造」をテーマに、堀口こみち氏((株)こころ代表取締役、兵庫同友会会員)の実践を紹介します。

 (株)こころは、ぬいぐるみを「治療」するぬいぐるみ病院を運営しています。現在は、患者会のようなオンラインランド「ぬいぐるみの国」運営、ぬいぐるみ用シャンプーやグッズなどのオリジナル商品の販売、ぬいぐるみの終末医療のサービスなど、ぬいぐるみを命ある存在として受け入れることを軸に事業を展開しています。

倒産の危機の中、世界初の病院誕生

 ぬいぐるみの販売店としてスタートした同社でしたが、「薄利少売」の状態で倒産の危機に陥ります。そのような中、自社で販売したぬいぐるみの綿入れのサービスを行ううちに、自社で販売していないぬいぐるみについても「どうにかしてほしい」と依頼が来るようになりました。堀口氏自身、子ども時代だけでなく大人になってからも、つらい時期にぬいぐるみに心を支えられた経験があったため、ぬいぐるみのご家族に寄り添いたいと思い、ぬいぐるみを「治療」する病院を開業し、ホームページを作成しました。

 病院を開業して2年ほどが経った時、転機が訪れます。ぬいぐるみ病院がTwitter(現X)上で話題になったのです。それまで月に10件程度だった申し込みが1000件までに激増し、「重症の患者さま」の治療依頼も舞い込んできました。当時スタッフは2名しかいませんでしたが、全ての「患者さま」を受け入れるため、試行錯誤しながらさまざまな治療技術を開発していきました。

 依頼が急増した当時のスタッフの1人は元々ラッピング担当のパートさんでしたが、現在は「神の手」を持つドクター長として活躍しています。

他社との差別化

 ぬいぐるみを修理・クリーニングするサービスは以前から存在し、堀口氏が病院を開業した後、似たような名前で修理のサービスを提供する会社も出てきました。他社と違うのは、ぬいぐるみを治すことを通して人の心をケアすることを目的としていることです。「治療」では、同じ色の生地がなければ生地を染める、今の皮膚の上から新しい皮膚をかぶせる「皮膚移植」を施すなど独自の技術を駆使してお客さまが納得するまで細かく修正を行います。また、入院中はベッドで寝たり、友だちと話したりしているぬいぐるみの写真を送ったり、治療完了後はぬいぐるみ用の段ボール「お箱バス」でぬいぐるみが帰宅するなど、一貫してぬいぐるみを大切な「命」として扱っています。心がほっこりする細やかなサービスで、現在まで3年待ちが8年ほど続いている状態です。

社員の自主性を育む

 同社は、毎日感じたことをつづる「感じたことダイアリー」を全社員が書いており、堀口氏が返事を書いています。「ダイアリー」には「ひらめきアイデア」を書く欄があり、社員は日常の業務から将来事業としてやってみたいことまで幅広く、斬新なアイデアを次々に出しています。

 また今年から、企画や教育を担う社員は自分で給与を決めることができる給与自己申告制を導入しました。半年に1回面談を行い、この半年間自分は何をやってきたのか、次の半年間は何をするのかを話してもらい、自分の給料を申告するという仕組みです。

 自分で考えて、とにかくやってみる企業文化を育むための人材育成を心掛けています。

クールジャパンとして「ぬいぐるみ命療(いりょう)」を

 開業して10年の節目を迎え、これからはクールジャパンとして「ぬいぐるみ命療」のブランド価値を高める方向に舵を切っていきます。あらゆる存在に命が宿ると考える日本の伝統的な考えをベースとした独自のブランドを確立し、世界中から「患者さま」に来てもらえるように、ぬいぐるみを「治す」ことを通して人の心をケアするという理念を大切にしていきたいと考えています。「社員全員にぬいぐるみを命として受け入れるという考えを持ってもらうというより、理解してもらえるように伝え続けていきたいと思います」と語る堀口氏。「ぬいぐるみ命療」の思いを世界に、そして次世代に伝えていくために、11年目、(株)こころは新たな一歩を踏み出します。

会社概要

設立:2013年
社員数:48名
事業内容:ぬいぐるみ病院運営、ぬいぐるみの国運営、ぬいぐるみの里親さがし もふもふの家運営、ぬいぐるみの終末医療、ターミナルぬいケア、ぬいぐるみの森運営、ぬいぐるみ・雑貨販売、オリジナル商品企画開発および販売
URL:https://www.cocoro.bz/

「中小企業家しんぶん」 2024年 8月 5日号より