連載 中小企業を働きがいのある職場に 
「全員が主役」の多角化経営(前編) 
(株)パラマウント 代表取締役 粕川 利史氏(宮城)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)パラマウント(粕川利史代表取締役、宮城同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。

多角化経営

 (株)パラマウントは、不動産事業、アミューズメント事業(主にカラオケ事業)、飲食事業(そば店、パン店)、パンの製造小売・卸売事業、代理店事業というように多角化経営を行っています。出発点は同社会長で粕川氏の父親が(有)パラマウント(1985年設立)で行っていた不動産事業です。粕川氏はこの事業を受け継ぎ株式会社組織に変更しました(2010年)。

 不動産事業は商業物件を対象としているため、空き店舗、テナント募集、新規出店などの情報が集まります。また、会長は(有)パラマウントのほかに25業種100店舗にわたる企業へと発展した(株)パラマウントスポーツを経営していたため(同社は残念ながら法的整理により存続していません)、デベロッパーをはじめ種々の人との関係を形成し、高い情報収集力を持っています。会長は(株)パラマウントでは不動産事業を担当しています。こうした同社の情報収集力を基に多角化経営が始まりました。

そば店、パン店の開設

 粕川氏の事業承継時点で計画されていたのがそば店とパン店の開設です。

 そば店は築100年の古民家、パン店はそれに付随する築160年の馬小屋を活用したもので、約1000坪の敷地の中で隣接しています。建物のオーナーから、住み続けることはできず、かといって先祖伝来の建物を壊すには忍びない、何かよい方法はないかとの相談を受けて始めました。そば店やパン店のノウハウは全くありません。それぞれ職人を中途採用し、職人と共に手作り感に満ちた製品を開発しました。そばは手打ちにし、そば粉はでんぷん質が多く、のどごしのよい山形産を生産農家から直接仕入れます。パンは固い食感のハード系パンで、北海道産小麦、宮城県石巻産の塩、自家製天然酵母から作った自家製の生地を焼いて作ります。小売と飲食店で提供しています。

 両店とも開業直前に東日本大震災に見舞われ、対処に追われましたが、オープン初日から多くの客が押し寄せ、現在、そば店は年間4万人、パン店は2万5000人の来客があります。山形、福島からも来てくれます。そば店、パン店とも付加価値を追求し、上昇した燃料価格の転嫁もできています。

カラオケ事業、卸売事業、代理店事業

 カラオケ事業にも進出します。東日本大震災で空き店舗となったカラオケの居抜き店舗や県内の同業他社店を買い取りました。コロナ禍前、売り上げは好調で、全売り上げの50%以上を占めました。

 パン事業では卸売事業が派生しました。コロナの感染拡大でカラオケ事業の売上が9割減少してしまい、雇用維持のためにも新規事業への挑戦が必要で、2022年パンの卸売事業を始めました。パンは10数年、小売りを行っていましたが、たまに、地元のレストランのシェフが料理用のパンを買いに来るのに目を付けました。カラオケ店舗の削減で生まれた余剰人員を卸売事業の開拓と卸売製品の製造にあて、この事業を始めて3年目の現在、北海道~大阪のレストラン、ホテルなど30軒と取引しています。

 代理店事業はメイン銀行の紹介で始めたもので、山形のシステムブレーカーメーカーの代理店となっています。

 以上の多角化経営の追求の結果、パラマウントの売り上げ構成は、不動産事業52%、アミューズメント事業24%、飲食事業(そばとパン)15%、パンの製造小売・卸売事業8%、代理店事業1%となりました。

多角化経営を分析する

 パラマウントの事業はバラバラな事業の寄せ集めという印象を受けますが、その背後には、明確な多角化戦略と情報志向的な経営があります。多角化戦略の下で不動産事業に集まる情報を基に新分野を開拓し、新分野で発生した情報を基にまた次の分野を開拓しています。新分野への進出といっても現在の物的経営資源や人材資源を活用できる分野にしています。同社の多角化経営は、「戦略」、「情報志向」、「既存経営資源の活用」から生まれたものです。

 根幹となる多角化戦略は、宮城県内で25業種100店舗に及ぶ多角的な経営を行っていた会長の影響を受けています。粕川氏はこのような事業を見ていたため、もっといろいろな事業をやってみたい思いがあります。「起業家魂」が刺激されるのでしょう。それだけではなく、コロナ禍で事業継続のため多角化の必要性を痛感しました。コロナ禍により当時売り上げの半分以上を占めていたカラオケ事業の売り上げが9割も低下し、5億円だった年商は3億4000万円に低下、企業存続の危機に陥りました。売り上げは徐々に回復し、23年度の売り上げは3億8000万円に回復しましたが、1事業専業だと、またコロナ禍が起きたら「即死」すると言います。粕川氏は、人口が減少し、市場が縮小するのはわかりきっている。多角化によって客数を確保しなくてはならないとも付け加えます。

 多角化戦略がすべてうまくいったわけではありません。学習塾、子ども向け室内体操教室への進出は成功しませんでした。パン事業も他に1店出店しましたが失敗でした。しかし、多角化戦略はリスクヘッジとしても人口減少時代の経営戦略としても必須と考えています。

(後編につづく)

会社概要

設立:1985年3月
事業内容:不動産業・アミューズメント事業・飲食事業・店舗プロデュース・代理店事業・卸売事業
従業員数:60名(パートアルバイト含む)
URL:https://pmsp.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2024年 8月 5日号より