【あっこんな会社あったんだ!】海外展開 
国産タイルで世界を彩る 
(有)鈴研.陶業 代表取締役 鈴木耕二氏(岐阜)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「海外展開」をテーマに、鈴木耕二氏((有)鈴研.陶業代表取締役、岐阜同友会会員)の実践を紹介します。

 窯業が盛んな岐阜県多治見市にある(有)鈴研.陶業。タイルの仕入れ・販売を行う商社として1949年に創業され、バブル期に外壁用タイルの需要が増えたことで新工場を建設して製造にも取り組み始めました。鈴木氏は1998年に21歳で同社に入社。2005年に先代の父が急逝し、28歳で同社を承継して3代目社長に就任しました。

経営理念で現状を打開

 鈴木氏が会社を継いだ2005年、国内で耐震偽装問題が発生します。全国的にマンション建設が一時停止され、同社の売り上げは3カ月の間、前年比70%ダウンしました。その後のリーマンショックの影響や、バブル期に行った過剰な設備投資の負債なども抱えるなど資金難に陥ります。時代の変化とともに水回りをはじめ各家庭でタイルが使用されなくなり、「タイルの時代はもう終わっている」と言われるほど業界全体が急落していました。

 会社存続のために新たな取り組みが求められた鈴木氏は、経営の軸が必要と考えて経営理念の作成に取り掛かります。会社の強み・弱み、自分自身の強み・弱みを細かく分析し、顧客だけでなく家族や友人、取引先、仕入れ先など関わる全ての人の満足が必要だと気づきます。何のために仕事をしているのかを深掘りし続けていたことで、その後の同友会入会直後に経営理念を確立するに至りました。

建材から雑貨へ

 自社の持つタイル製造の設備と知識を生かすため、タイルの強みと弱点の分析も行いました。丈夫で紫外線に強く、色あせず風雨に負けない、外壁として最も優れた素材であるという強みを見いだすと同時に、「彩る」というタイルの本質的な魅力の再発見につながりました。一方で、人々の興味や関心が低いこと、製造方法や活用方法が知られていないことが弱みだと分析し、タイルを地域の人々に知ってもらう活動に力を入れていきます。

 そこで取り組んだのが、寸法通りにタイルを加工できる自社の強みを生かした小売り製品の開発です。タイルでつくられたパズルを製作し、インターンシップに来ていた学生たちと共にマーケティングを図りました。また、学生からは箸置きやせっけん置き、スマホケースなどユニークなタイル雑貨のアイデアが出され、そのうちの1つにアクセサリーがありました。タイルを薄く加工することで軽量化してタイル製アクセサリーを製作し、地元のお祭りや展示会で販売すると多くの方の目に留まり、初めて人から「欲しい」と言われる体験をしました。

建物を彩るタイルから人を彩るタイルへ

 その後、デザイナーを採用するなど雑貨の製作へと事業を拡大し、徐々に自社ブランドを確立していきます。2014年には中小機構から地域資源活用事業の認定を受け、翌年に東京のギフトショーに出展。それまで雑貨の売り上げは年間数十万円ほどだったにもかかわらず、1日で数百万円単位の受注を獲得しました。しかし、国内需要の縮小によって2018~19年に売り上げが高止まりし、鈴木氏は海外に新たな販路を求めます。

 2020年に初めてフランスの展示会に参加しますが、直後に発生した新型コロナ禍によって取引は中断に。コロナ禍で同社は大きな赤字に陥りますが、この期間を好機と捉えて、生産体制と販売体制の整備に資金注力し、技術力と販売力を強化しました。

 そして2022年、23年とフランスでの展示会に再度挑戦します。ブースでは絵付けのワークショップを行うなど日本の技術や文化を体験してもらい、ヨーロッパだけでなくアメリカや中国などにも活動の幅を広げていきました。現地の雰囲気やトレンドを吸収することでニーズをつかみ、大型の受注にもつながっていると言いますが、「国内の産業と雇用を守るために海外生産は行わない。日本の素晴らしい製品を世界中に届けることで、地元の地域やタイル業界の発展につなげたい」と力強く語る鈴木氏。多治見製タイルの魅力を発信しながら、世界中の人々の生活を彩り続けています。

会社概要

設立:1988年
社員数:20名
事業内容:やきものアクセサリー・陶磁器タイルの製造販売
URL:https://www.suzukentg.jp/

「中小企業家しんぶん」 2024年 8月 15日号より