就労者側から見る賃上げとその影響

 企業側に対して、賃上げを実施したかというアンケートはよく見ますが、就労者側の視点でのアンケートは興味深いものがあります。企業側のアンケートでは中同協が2024年5~6月に調査(回答数599件)を実施し、81.46%が賃上げを行っているという結果でした。東京商工リサーチ「賃上げに関するアンケート」調査でも、2024年度に賃上げを「実施する」と回答したのは、調査開始から最高の85.6%となっています。大半の企業は賃上げを実施していることが見て取れます。

 では、就労者側のアンケートを見てみます。野村総合研究所は2024年5月、全国の就労者20~59歳の男女2,680人を対象に、賃上げによる収入増加の実態と、それがもたらす就労や消費への影響を把握するためのインターネットアンケート調査を実施し、5月29日にニュースリリースをしています。

 回答者のうち、この間(2024年1月1日から、調査に回答した2024年5月7日または8日までの期間)の賃上げによって「収入が増えた」と回答した人は33.3%となっています。実際賃金が上がった就労者は3人に1人です。今年中に勤め先の賃上げによって収入が増える予定があると回答した人は12.1%となっており、「今年中に賃上げで収入が増える人」は45.4%です(図1)。過半数の就労者は賃上げで収入が増えていない実態が見て取れます。就労者側の実態としては、賃上げで収入が増える人は半分以下となっているのです。

 今後の消費意向を聞いたところ、今年これまでに賃上げで収入が増加した就労者の場合、「積極的に消費活動をしたい」は6.4%、「どちらかといえば、積極的に消費活動をしたい」が34.6%で、消費活動に積極的である人の割合は合計41.0%となっています。収入が増えても、半数以上の人は物価高の中で守りの姿勢であることが見て取れます。今年中に賃上げによって自身の収入が増える予定はないと回答した人の場合、「積極的に消費活動をしたい」は4.9%、「どちらかといえば、積極的に消費活動をしたい」が20.8%で、消費活動に積極的である人の割合は計25.7%にとどまりました(図2)。

 賃上げにより、4割程度が消費に回る傾向が調査で分かりますが、実質賃金の減少が続いている中では、まだまだ財布のひもは固いのではないでしょうか。物価上昇局面において、成長と経済の好循環を生み出していくには、企業側の価格転嫁と賃上げ努力とともに、政策的に減税、社会保険料の減免、消費対策などが必要と感じます。このままでは好循環どころかスタグフレーションになる恐れもあります。

「中小企業家しんぶん」 2024年 8月 25日号より