特集 中小企業魅力発信月間 
中小企業の魅力を全国で発信し、さらなる成長の契機に

各同友会では、7月20日の「中小企業の日」および7月の「中小企業魅力発信月間」にちなんでさまざまなイベントが開催されました。今回の特集では、長野、富山、兵庫、福岡、大分の取り組みを紹介します。

外部環境分析と経営戦略で自社を知る
地域の中小企業と金融機関が互いに連携協力【長野】

長野県では、地域の中小企業と金融機関が互いに連携協力し、中小企業と地域経済の発展を図ることを目的に連携協議会を設置して、定期的に情報交換を行っています。

7月17日には、信州大学工学部内・長野市ものづくり支援センターにて中小企業の日イベントに合わせ、第13回連携協議会・特別企画として地域経済分析システム(RESAS)の活用方法について学び合いました。当日はハイブリッド形式にて行い、県内全金融機関・関係機関・財務事務所の方々を含め85名が参加しました。

第1部では、経済産業省中小企業庁事業環境部調査室・室長補佐(事業環境地域分析担当)の田中幸仁氏より、データを活用して自社の経営環境を確認することの大切さを学びました。激変の時代において経営者はさまざまな経営判断を行いますが、データを活用しないと「勘」「コツ」「経験」「度胸」の暗黙知(簡単に言葉や数字にできない情報)に基づく経営判断になり、限界があります。それをデータで補うのがデータを活用した経営であり、きちんとした経営指針をつくるには経営環境分析が大切であるとの指摘がありました。自社の経営環境は経営者が把握していますが、外部環境は統計データを使わないと把握できないということで、具体的な活用方法について理解を深めました。

第2部では、経済産業省中小企業庁調査室RESAS開発担当の与五沢浩一氏が説明を行い、実際に政府統計とRESASを活用して経営環境分析シートを作成しました。

その後、企業側・金融機関側それぞれがどのようにRESASを活用していくかをテーマに意見・情報交換を行い、「金融機関側も支援していくにあたって、仮説の数字ではなくデータを示していけるので活用していきたい」などの声もありました。

最後に、関東財務局長野財務事務所・清水正雄所長より「具体例を示していただき参考になりました。皆さんデータを活用しましょう」とのまとめで終了しました。

つながる、にぎわう、ささえあう
中小企業魅力発信月間特別例会【富山】

富山同友会は、7月31日に「つながる、にぎわう、ささえあう~産官学で、ずっと暮らしたい地域づくりへ」と題して中小企業魅力発信月間特別例会を開催し、同友会会員をはじめ県下の行政・教育関係者や議員、一般市民を含む約100名が参加しました。

パネルディスカッションでは、富山県上市町にある松井エネルギーモータース(株)の松井健彰社長(ハッピー上市会副会長)、上市町の小竹敏弘副町長、上市高校の前原五輪雄校長がパネリストを務め、近江清氏(富山同友会相談役)が進行しました。

タイトルの「つながる、にぎわう、ささえあう」は上市町の第8次総合計画に掲げられた「まちの将来像」です。同町は県東部に位置する人口1万9700人の町で、2014年に「消滅可能性都市」に挙げられました。これと前後して、富山同友会政策委員会から市町村に中小企業振興条例を制定しようという運動が提起され、まずは上市町をモデルに!ということで2013年に会員8名で設立されたのがハッピー上市会です。集まるのはわずか2~3名という時期もありましたが、会合は11年間毎月欠かさず開催され、次第に町職員や金融機関、学校関係者、まちづくりに取り組む個人など多様な人々が集うようになりました。今では町の総合計画づくりに携わり、上市高校の「職業を知る会」や「キャリバイト(キャリア教育とアルバイトを組み合わせた造語)」といった活動にも積極的に参画しています。

いま少子化が進み、富山県でも県立高校の再編統合の問題が話し合われています。小竹副町長は同校の県内就職率の高さに触れ、「就職希望者の100%近く、進学者の9割近くが県内で就職しています」と、同町唯一の高校存続のため、「キャリア教育高校」への校名変更を県に要望した経緯を説明しました。前原校長はキャリア教育による生徒の変化などに触れながら「キャリア教育の先にある、起業家を生み出せる学校にしたい」と将来の構想を語り、松井社長は「産学官が連携してまちづくりを進めていくしかこの先の未来はありません。その時に起爆剤になり得るのはわれわれ地元の企業経営者です」と呼びかけました。

その後、参加者は市町村エリア毎のグループに分かれ、上市町の試みを各地域の課題解決に生かす方法について話し合いました。討論の発表では「他人任せにせず自分事にしていきたい。思いや意見を持った人が集まる場をつくること、多くの人ができることを協力して行えることが大切。どのように行動していくかによって結果は変わるのではないか」といった感想が聞かれました。

地域経済社会の「主役」は中小企業
中小企業魅力発信フォーラム開催【兵庫】

7月22日、「中小企業魅力発信フォーラム」が兵庫同友会主催、兵庫県・神戸市・中小企業基盤整備機構近畿本部の後援で開催され、107名が参加しました。

第1部は、記念講演として京都大学名誉教授・京都橘大学経済学部教授の岡田知弘氏が「ひとりひとりが輝く地域づくり~中小企業の魅力をさらに引き出すために~」と題して講演。グローバリズムと続発する災害の中で、足元の地域経済社会を元気にする「主役」は中小企業であること、また自分たちの会社や社員を大切にするだけでなく、地域をよりよい形で次世代に渡すために「企業づくりと地域づくり」を継続的かつ豊かに追求していくことを提起しました。

第2部の兵庫同友会会員企業の実践事例報告では、2020年度版中小企業白書「中小企業の4つの類型」に基づき、PORT STYLE(株)代表取締役の水木秀行氏(グローバル型)、(株)鍵庄代表取締役の入江雅仁氏(地域資源型)、(株)メタルテック代表取締役の松下真由実氏(サプライチェーン型)が登壇。水木氏からは多店舗展開戦略における現状の到達点と課題を、入江氏は明石のりという地域資源の活用とSDGsに関する取り組みを、松下氏からは児童養護施設退所児童の自立支援「職親」の取り組みについて報告がありました。また、障がい者委員会の取り組みとして、(株)インプルーヴ代表取締役の鈴木弘美氏、廣本産業(株)代表取締役の広本辰典氏から、「はたらく応援マップ」と「しごと体験フェア」の紹介があり、「障がい者雇用を通じて『人』を深く知ることができる」と熱弁しました。

第3部では、兵庫県と兵庫同友会による「学生と描くSDGsプロモーション事業」成果報告が行われました。これは学生自身が取材を行い、学生の視点で型にとらわれない自由な発想のもと動画を制作・編集するという企画です。甲南大学の学生からは近畿農産資材(株)、関西学院大学の学生からは(株)成田の取材成果発表が行われました。

インタビューシップ(共育型インターンシップ)とは?
中小企業の魅力を地域の若者に発信する取り組み【福岡】

7月29日、中小企業魅力発信月間大勉強会が福岡県中小企業振興センターにて開催されました。共育型インターンシップ(以下、インタビューシップ)をテーマとし、山形大学より松坂暢浩教授を迎えて2部構成で行われ、第1部では80名、第2部では88名の計168名の参加となりました。

第1部では、北九州市立大学との共催イベントとして多くの高校生も参加し、インタビューシップ体験をしたうえで、ラジオ番組風の発表、大学教授と会員による対談が行われました。ワークショップ型のプログラムのため、非常に和やかな雰囲気で進みました。

続いて第2部では、インタビューシップの研究を行う山形大学の松坂暢浩教授よりインタビューシップの解説、山形同友会との連携、参加学生と受入企業のメリットなどについての報告がありました。

報告の中で特に印象深かったのは、自分自身の経験を振り返り、社員が自身の内面を見つめなおす機会となる“内省支援”の重要性です。企業にとっては、自社だけではなかなかできない内省のきっかけとなる外部とのつながりを意図的につくり出す場としてこの取り組みが重要です。インタビューシップを通して高校生・大学生といった外部の人との関係性を築くことで、社員の意識変化、モチベーションアップ、業務の見直しなどにつながってきます。学校側も学生を企業に送り出すためにビジネスマナーなどの教育ができ、「自分自身にとって働くとは何か」、「地域の中小企業等の魅力とは何か」、「この体験での学びを踏まえて今後どのように成長していきたいか」などを学生に考えてもらうきっかけとなります。双方にとってプラスの効果がある取り組みのため、多くの参加者が興味深く耳を傾けていました。

福岡同友会では、すでにインタビューシップに取り組んでいる香川同友会に昨夏視察に行きました。冬休みに北九州市立高校17名の受け入れからスタートし、今期は1学年200名全員の参加に広がっています。今後は福岡県全体へこの取り組みが広まっていくように、教育機関と連携を取りながら進めていく予定です。

地域経済のインフラとしての中小企業の役割を学ぶ
民・官・金それぞれの立場で【大分】

7月26日、J:COMホルトホール大分(WEB対応)にて岡田知弘氏(京都橘大学経済学部教授、京都大学名誉教授)を招いて中小企業振興基本条例の理解を深めるとともに、地域経済のインフラとしての中小企業の役割を学ぶ学習会を開催しました。大分県、大分市や別府市の担当者、覚書を締結している大分信用金庫、大分みらい信用金庫も含めて40名が参加しました。

岡田教授が、2018年の中津支部「中小企業振興基本条例制定シンポジウム」で講演を行ったことを踏まえ、まずは中津支部長の原田敬史氏((有)原田工務店取締役)が県内の中小企業振興基本条例の取り組み状況を報告しました。

続いて、「地域を元気にする中小企業振興基本条例~地域のインフラとしての中小企業の可能性~」をテーマに、岡田教授が基調講演を行いました。以下、報告内容を紹介します。

「大災害とグローバリズムの時代に、誰が地域をつくり支えますか。災害が起きても、住民の生活を支えてきたのは地域の中小企業者です。中小企業者や地方自治体など、地域社会を維持する経済主体者が再投資力をつけることが重要です。

大企業を中心とする海外進出と輸入促進政策で地場産業、農林水産業が衰退してきました。また構造改革政策により東京都内へ富が集中し、地方の衰退が加速しました。地域で暮らし続けることが困難になっているのです。

1999年に中小企業基本法が改定されました。2010年には中小企業憲章が閣議決定され、2014年に小規模企業振興基本法が制定されました。中小企業を主役に、地域の実情にあった独自の産業政策を地方自治体が持つ時代で、自治体として施策を策定し実施することが責務になりました。中小企業と自治体との戦略的連携のための重要な手段が、中小企業振興基本条例だと注目しています。

地域が豊かになるとは、住民一人一人の生活が維持され向上することです。地域発展には地域内再投資力が欠かせません。再投資を繰り返すことで、仕事と所得が生まれ、生活が維持、拡大されます。足元の地域経済を元気にする『主役』は主体的に動いている皆さん方です」と訴えかけました。

その後、グループ討論を行い、民・官・金それぞれの立場で意見を交わし学びを深めました。

「中小企業家しんぶん」 2024年 9月 5日号より