2024年4~6月期同友会景況調査(DOR)オプション調査より 
2024年度春は厳しい採用状況、業績と労働環境改善が喫緊の課題 
慶應義塾大学経済学部教授 植田 浩史(中同協企業環境研究センター座長)

2024年4~6月期の同友会景況調査(DOR)では、会員企業の採用状況、人材確保が必要な理由、人材確保・定着の取り組みなどについてオプション調査を実施しました。調査結果からは回答企業の6割以上が新卒・第2新卒採用に取り組んだものの、順調に採用できた企業は少なかったことが分かりました。以下、データに基づいて直近の会員企業の人材に関する状況について報告します。

厳しい採用状況

最初に、採用対象ごとの採用状況について見ていきます。「採用の予定なし」が最も少ない(採用の予定が多い)のは「正規/中途・若年(35歳未満)」(以下正規若年)で26%である一方、「臨時・パート・アルバイト」(以下臨時他)は約半数が「採用の予定なし」としています。「正規/新卒・第2新卒」(以下正規新卒)は37%が「採用の予定なし」としています。

採用状況は、どの対象においても厳しく、「順調」は最も高い正規新卒でも5%に過ぎません。「まずまず順調」を合わせても、いずれの対象も2割に届いていません。「とても苦戦」は正規若年(34%)、正規新卒(29%)で高く、一方、臨時・パート・アルバイトは11%と相対的に小さくなっています。「やや苦戦」と「とても苦戦」を合わせると、正規新卒45%、正規若年58%、「正規/中途・中高年(35歳以上)」中高年46%、臨時他32%となっており、採用状況の厳しさを示しています。(図1)

業種と正規新卒採用の状況

直近の2024年4~6月期のDOR調査の人手の過不足感DI(「過剰」︱「不足」割合)は全体で△39、建設業△58、製造業△18、流通・商業△34、サービス業△58と強い不足感を示していました。業種ごとの正規新卒の採用状況を見ると、「採用の予定なし」は建設業が24%と最も低く、次いで製造業が32%です。一方、流通・商業は45%、サービス業が41%と「採用予定なし」の割合は高くなっています。人手不足への対応としての正規新卒採用の取り組みには業種によって違いがあります。

採用状況については、「順調」「まずまず順調」を合わせた数字では、製造業22%、流通・商業20%、建設業19%、サービス業14%となっています。また「とても苦戦」は建設業41%、製造業32%、サービス業27%、流通・商業21%であり、人手不足感の強い建設業では採用を予定していた企業は多いものの、採用には苦戦している状況が示されています。

企業規模別、業績別に見た正規新卒採用

2024年4~6月期DOR調査の企業規模別の人手の過不足感DIは、20人未満△38、20~49人△38、50~99人△33、100人以上△56となっており、100人以上が突出して高い以外は、企業規模にかかわらずほぼ同じような人手不足感となっています。

これに対し正規新卒採用の状況は、「採用予定なし」は100人以上7%、50~99人14%、20 ~49人26%、20人未満54%で、規模が大きくなるほど正規新卒採用に積極的に取り組んでおり、その差が大きいことを示しています。

また直近の2024年4~6月期の業況水準とクロス集計すると「やや悪い」「悪い」の「採用予定なし」は42%であるのに対し、「そこそこ」37%、「やや良い」「良い」30%と差が見られます。採用の実績についても「順調」「まずまず順調」は、「やや良い」「良い」28%に対し、「そこそこ」16%、「やや悪い」「悪い」17%と差があります。企業の業況も採用状況に影響を与えていることが分かります。(図2)

事業継続・発展に必要な人材確保

次に、人材確保が必要な理由を見てみます。人材確保が必要な理由については、「従業員の高齢化」43%、「業務量増加や規模拡大」40%、「退職による欠員」38%、「技術・ノウハウの伝承」27%、「新事業・新分野の展開」26%、「将来的な後継者確保」25%の順となっています。高齢化や退職によって生じる人員補充や技術・ノウハウの伝承は事業継続にとって不可欠の課題です。また、事業の拡大や新分野の展開も変化の激しい時代においては重要な課題です。人材の確保が中小企業の事業継続や発展に重要であると考えられていることが確認できます。(表1)

人材確保・定着への取り組み

重要となっている人材確保・定着に対してどのような取り組みを進めているのでしょうか。取り組み内容として「時間外労働の削減・休暇制度の利用促進」50%、「職場環境・人間関係への配慮」48%、「能力や適性に応じた昇給・昇進」47%の上位3つはほぼ半数が選択し、特に重視されていることが分かりました。次いで、「成果や業務内容に応じた人事評価」34%、「研修・能力開発支援」33%、「他社よりも高い賃金水準の確保」30%が多くなっています。その他にも企業ではさまざまな取り組みを進めています。企業の賃金や昇給、人事評価など人事制度まで踏み込んだ改革が行われている点は注目すべきです。(表2)

日本における人材不足の原因

設問では、日本における人材不足の原因についてどう考えるのかも聞いています。「人口減少」78%が群を抜いて多く、次いで「働く意欲の低下」36%、「雇用形態の変化・多様化」34%となっており、社会状況の変化、意識の変化など外部環境が問題視されています。次いで多かったのは「低賃金」28%、「労働時間規制」23%、「働きやすい環境の整備不足(休暇制度・福利厚生等)」20%、「年収の壁」18%、「外国人労働者の受入支援不足」11%となっており、政策や制度の問題(労働時間、税制、外国人労働者など)、企業側の体制(賃金、働きやすい環境)が問題とされていることが分かりました。(表3)

業績と労働環境改善が喫緊の課題

人手不足感が強まる中で、国内では人口減少、生産年齢人口の減少が進み、中小企業においても労働力不足が深刻になっています。こうした中で2024年春の採用については苦戦している企業が多く、特に規模の小さい企業、業況水準の悪い企業では課題が多く残されています。

事業維持や拡大にとって不可欠な人材の定着・確保を進めていくための取り組みとして重要なのは、第1に経営の業績の安定と改善を進めていくことです。その上で、第2に、社内の労働環境改善や人事処遇に関する制度の改革や整備を行っていくことです。第3に、各社の経営指針や経営計画に人材の定着と確保をしっかり位置づけていくことです。

「中小企業家しんぶん」 2024年 9月 15日号より