講演録

ヨーロッパ中小企業憲章とEUの中小企業政策

憲章の意義と効果

 この憲章は、EUレベルの21世紀の中小企業政策の実施に大きな手がかりとなりました。また、先に触れた「第4次多年度計画(MAP)」をはじめ、各政策、各国の制度や施策との連携・整合性を重視していることです。さらに、加盟国政府の責任で憲章の理念とアクションプランに合意し、その実行を各国に義務付け、その進捗(しんちょく)状況を毎年チェックしています。

 このように、中小企業憲章を軸に新しい政策を展開する中で、新しい課題が広がっています。それを3つのEと言っています。

 1つは、Enlargement、EU拡大と調和・協力。2番目は、Employment、雇用機会の確保拡大です。雇用問題は以前に比べれば改善されましたが、まだ大きな問題であり、これに対して中小企業政策がどういうことができるかです。3つ目は、Environment、環境と持続可能な成長。EUにおいては、基本条約の中で持続可能な成長が謳(うた)われていますが、これに中小企業がどのように貢献していくのか、という課題です。

 実際に中小企業政策を推進する上では、他の政策との連携が非常に強まっていることを強調したいと思います。

 1つは地域政策、地域間の格差を是正する政策です。2つ目は、産業政策との連携。EUの担当機関が第23総局から産業政策担当部局と一緒になって企業総局となったところにも反映しています。3つ目は、中小企業政策自体の社会性です。

市場統合の進展で地域政策との連携強化

 現実の中小企業政策がすべてうまくいっているわけではありません。

 実際には、いろいろな問題がありますし、各国間、各地域間でも利害関係が複雑です。特に今のヨーロッパにおいては、中・東欧の新たな加盟国が加わったことにより、東側のコストの安いところから大量に商品が流入するという懸念があり、西側の国の中小企業にはかなり不安、不満があります。市場統合は自分たちには縁がないと思っていた中小企業にも、直接に市場統合の影響が押し寄せるわけです。

 EUの地域政策では、地域間格差を是正し、共に同じような繁栄を享受できるようにするために、多額の補助金が投じられています。この地域政策と中小企業政策の連携が近年強化されています。地域経済を活性化し、雇用を拡大して産業を発展させるには、中小企業の存在が絶対必要だからです。

 したがって、地域のインフラ整備等だけでなく、企業の雇用や職業訓練などに直接援助する。

 あるいは、その地域の中小企業と他地域の中小企業との連携や市場機会の拡大、地域企業のイノベーション推進などにも取り組んでいます。その意味では、産業政策とも重なり合います。

産業政策と中小企業政策の連携強化も

 従来、ヨーロッパは産業政策には慎重なスタンスでしたが、90年代には軌道修正され、技術革新や雇用など遅れている分野を介入政策で引き上げようとしています。したがって、EUの産業政策も大きく理念的にシフトしました。また単に競争力を高める政策だけでなく、企業の社会的責任(CSR)という視点が据えられています。

 その中で、産業政策と中小企業政策も連携が強化されています。

 たとえば、中小企業がEUや各国で行われている研究開発プログラム等にいっそう参加できるようにすることです。

 以前から「掛け声」だけでは言っていたのですが、なかなか中小企業の参加が増えませんでした。やはり、具体的な目標値を掲げ、実際に推進していこうということです。

総合的な戦略と政策で産業振興

 最近は、EU各地で地域政策、産業政策、中小企業政策が三位一体的に取り組まれることが多くなっています。

 私が調査したところでは、いわゆる産業クラスターの考え方が前面に出てきて動いています。ただし、クラスターといっても幅広く戦略産業が設定されていまして、ハイテクだけでなく観光業や建設業なども入っています。しかも、非常に長期的に、地域を主体に手間隙かけて取り組まれています。

 もう1つの特徴は、総合的な政策として進められていることです。

 単に一部の企業や産業を育成すれば結果がついてくるというものではない。地域全体の社会問題の解決や教育環境の改善、インフラの再整備など、総合的な戦略と政策で産業振興に取り組んでいます。

 その中では特に、人材育成を重視しているのが大きな特徴です。

(つづく)

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