講演録

ヨーロッパ中小企業憲章とEUの中小企業政策

企業家精神と社会性の強調

「企業家精神グリーンペーパー」

 「ヨーロッパ小企業憲章」や「第4次多年度計画(MAP)」でも改めて強調されていることは、「企業家精神」(entrepreneurship)、「起業文化」(enterprise culture)です。これは、単なる精神論でなく、企業家が育つような環境や機運、そのための制度をいかに整備するかという問題として意識されています。

 2003年には『企業家精神グリーンペーパー』がEUから出されました。ここでは、「企業家精神とは、新しいまたは既存の組織のうちで、リスクテイキングと創造性、イノベーションを健全な経営とブレンドし、経済活動の創成と発展をもたらすマインドセット・過程である」と位置づけ、企業家精神をヨーロッパ全体に発展させることが大事であるとしています。

これが「entrepreneurial society企業家的社会」の実現である、としています。

 この『グリーンペーパー』については、パブリックコメント募集がされ、個人や企業、団体を問わず意見が集められ、インターネット上で内容が公開されました。ヨーロッパ全域に議論が巻き起こることによって、企業家精神のリバイバルが起きることを期待しているようです。

中小企業が持つ高い社会的使命を自覚

 もう1つの強調点は、社会性です。そもそも欧州統合自体が狭い経済利害第一で統合したわけではありません。社会的側面もあったからこそ統合が成功したのです。それは、雇用や労働条件、福祉、社会保障、教育、文化などの政策やルールです。

 社会的権利の擁護については、社会権憲章などいろいろなチャーターが定められています。中小企業や中小企業政策も、この流れと深いかかわりを持っていると私は考えます。

 ヨーロッパでの中小企業・中小企業政策の社会性について、私なりに整理し列記すると、次のようになります。

 (1)「雇用機会確保」という最大の社会的使命、(2)協同組合・非営利組織までを含む企業政策の幅広い視野・対象、(3)「社会的結束」(social cohesion)=地域間や諸階層の間の格差・不均等の是正との深いかかわり、(4)女性や青年層などの自立支援はじめ、創業および企業家精神自体の持つ社会性・文化性、(5)地域商業や福祉サービス、伝統的技能の継承など、事業の果たす社会的使命と貢献、(6)企業の社会的責任と環境問題への対応、ガバナンスの発揮の必要、(7)国際協力、とりわけ将来のEU加盟国企業等との連携、などです。

 ここで強調したいのは、中小企業が高い社会的使命・社会性を持っていることを「憲章」などを通じて自己主張してきましたが、同時に、それだけ大きな責任を担っていることの自覚でもあった、ということです。

(つづく)

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