講演録

ヨーロッパ中小企業憲章とEUの中小企業政策

日本の「中小企業憲章」の意義と課題

中小企業の地域での社会的役割を強調

 日本でも、ヨーロッパと同じように中小企業が大きな役割を担ってきましたし、日本の中小企業が直面しているような大きな問題をどうするかということもあります。しかし、中小企業が自らの不利の是正を強く求めるだけでなく、中小企業自身が社会的不利の是正に貢献する、そのために社会的な役割を担っていくことを改めて強調する必要があるということを、私は提起したいと思います。

 このことは、日本の現実の中で大きな意味を持つと考えます。そこでは、中小企業の「自己主張」や中小企業家同友会のような自立した運動がいかに重要であるかが、ヨーロッパの経験からも言えると思います。同時に、それだけの社会的責任もあるということです。

 さらに、ヨーロッパの経験が強く示していることの1つに、「学ぶ」(learning)ということの重要性があげられます。ヨーロッパの中小企業政策や関連文書に繰り返し出てきます。人が学ぶということの重要性、そこで健全な企業家精神が育まれることの重要性、その根本は地域にあるという認識があります。そのことは、日本においても確認できます。

中小企業基本法と中小企業を代表する機関

 日本には中小企業基本法があるから、改めて「憲章」なんかいらないのではないか、という意見があります。しかし、1999年に中小企業基本法は全面改正されましたが、現実のありようと中小企業基本法で謳(うた)われたことのギャップがあまりにも大きい。改正後の5年間を総括するという点からも、中小企業の側から「自己主張」を示すことは非常に重要であると思います。

 もう1つは、憲章を考える上で、「中小企業の立場を代表する」機関の必要性を提起したいと思います。

 EUの企業総局は、EUの中の機関であり、日本でいえば中小企業庁に近い存在ですが、同時に自らの使命として中小企業の声を幅広く聞き、その利害を反映させ、他の政策に対しても中小企業の立場を十分配慮しているかをチェックする役割があることを明確にしています。

 また、アメリカの中小企業庁(SBA)は、50年間の歴史の中で、基本的に中小企業者を代表する機関であるという位置づけを持っています。政府の予算で運営されていますが、しかし中小企業者を代表するものであるというスタンスを明確にしています。

 イギリスでは2000年にブレア政権の改革の中で、SBS(スモールビジネス・サービス)という中小企業庁的な機関をつくりましたが、アメリカのやり方に習って「中小企業の立場を代表する」機関としました。

 日本の中小企業庁は、経済産業省の中の1つの庁です。これが、「中小企業の立場を代表しない」とは言いませんが、基本的にお役所が「上から」ものを考えている側面が強すぎます。「中小企業の立場を代表する」機関としての中小企業庁は、むしろ世界の流れであると思います。

金融問題と憲章

 また、日本がこれだけの先進国になりながら、中小企業が大きく役割を発揮できない問題の1つに、金融問題があります。

 同友会ががんばってこられた金融アセスメント法制定を含め、日本の金融の仕組みの歪みを正して、地域レベルで地域経済と中小企業の役割を確立することの重要性がますます高まっています。

 私も参加した金融庁のリレーションシップバンキング作業部会が設けられ、まがりなりにも「リレーションシップバンキング」という地域金融のめざすべき方向が出されました。こういう流れの中で中小企業憲章を考えることは、改めて日本の中小企業政策を見直すきっかけとなり得ると考えます。

 そこでは、今までの日本における中小企業の経験、中小企業政策の経験を改めて確認し、その中から私たちの直面している状況をどう打開していくかを展望することも大事なことです。

 長期的には、東アジア地域での経済統合や地域統合も視野に入れ、経済的な共通ルールづくりなどを展望していくことが必要になってくると考えます。

(了)

(西日本地区代表者会議での講演より=6月)

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