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【08.07.01】【欧州小企業憲章視察記】(1) 立場が違えば評価も違う〜欧州小企業憲章

欧州クラフト・中小企業同盟とEU企業・産業総局を訪問

EU本部前 中同協は、5月18〜25日に「中小企業憲章ヨーロッパ視察団」をベルギーのブリュッセルとフィンランドのヘルシンキに派遣しました。主な目的は、2000年にEU(欧州連合)が制定した「ヨーロッパ小企業憲章」が8年経過して、どのような成果があり、今後の課題はなにか、ということを調査することでした。視察の様子とそこでの知見を4回の連載でお伝えします。(中同協政策局長 瓜田靖)

 今回の視察団は、12同友会・中同協の28名で構成。コーディネーターとして三井逸友氏(横浜国立大学大学院教授)にご同行いただきました。

欧州最大の中小企業団体は憲章に厳しい評価

 まず、ブリュッセルでは、UEAPME(欧州クラフト・中小企業同盟)との懇談からスタート。同団体は、27カ国・85組織、1200万社を組織する欧州最大の中小企業団体であり、EUに対するロビー活動を中心に展開しています。

 UEAPME企業対策渉外部長のヘンドリックス氏は、EUの歴史から説き起こし、ヨーロッパ小企業憲章制定に至った経過も丁寧に説明。話の中では、EUの政府組織である欧州委員会は、小企業憲章制定には当初消極的であり、加盟国が強く要望して制定されたこと。特に、当時のイギリスのブレア首相のイニシアチブがあったという事情が明らかになりました。

 ヘンドリックス氏は小企業憲章の実施状況には不満があり、厳しい評価でした。小企業憲章が加盟各国政府に中小企業の重要性を認めさせるきっかけとなったことを評価しつつも、法的拘束力がないため、各国の選択的な努力に任されていること、特に小企業プロパーの施策の実施があいまいになっているとします。

 今回の視察の成果の1つは、「ヨーロッパ小企業憲章」の名称にあるように、小企業(定義は別途参照)にこだわる背景の理解が深まったことです。UEAPMEは、運動を進めるうえでは中企業と小企業に分けることは合理的でないとしつつ、政策では小企業により焦点を当てるべきであるとの見解です。その点で、EU企業・産業総局の企業一般を対象とした産業政策へのシフトに対し、強い不満を持っていました。小企業対策は、今後の政策の対立軸、論点になるでしょう。

EU企業・産業総局ではSBAの原案説明

EU企業産業総局内 視察の最大の目的であるEU企業・産業総局の訪問でも、貴重な成果が得られました。憲章担当官のライケル氏は、UEAPMEと打って変わって、小企業憲章の成果を称揚します。加盟国が中小企業育成にびっくりするぐらいに努力しているとして、優良事例集を毎年発行していることや「憲章会議」を毎年開催していることを強調します。

 今回、大きな収穫だったのは、「Small Business Act」 (SBA、欧州小企業議定書)を準備している担当官からプレゼンテーションがあったこと。SBAの原案は6月に作成し、今年12月の欧州理事会に提案し採択する予定です。SBAは小企業憲章の法的拘束力を強化し、政策形成に“Think Small First”(小企業を第1に考えること)の理念を根づかせることが目的である、と説明されています。

 参加者からは、「立場が違えば評価も全く違うなど、百聞は一見にしかず。豊富な情報や見聞を日本でじっくり整理したい」という声が聞かれました。

(つづく)

EUでの中小企業の定義と経済に占める位置

 EUでの中小企業の定義は、「従業員数250人未満、年間売上額5000万ユーロ以下または総資産額4300万ユーロ以下で、他の1つないし複数の大企業に資本または経営権の25%以上を保有されていない企業」。そのうち従業員数50人未満、年間売上額1000万ユーロ以下または総資産額1000万ユーロ以下の企業を小企業、従業員数十人未満、年間売上額200万ユーロ以下または総資産額200万ユーロ以下の企業をマイクロ企業と呼んでいます。ヨーロッパの企業総数2500万社中99・7%が中小企業。しかも93・4%は10人未満のマイクロ企業です。

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