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【11.09.07】【憲章・条例ニュース】「活力ある産業が芽吹くまち」をめざして〜慶應義塾大学経済学部 教授 植田浩史

新宿区産業振興基本条例(東京)の制定に関わって

 東京都新宿区が今年3月に新宿区産業振興基本条例を制定しました。条例の制定に向けて設置された「(仮称)新宿区産業振興基本条例に関する懇談会」では、慶應義塾大学経済学部教授の植田浩史氏(中同協・企業環境研究センター副座長)が会長を務め、東京同友会も新宿支部副支部長(当時)の藤田明男氏(五常産業(株)代表取締役、現東京同友会代表理事)が委員を務めるなど積極的に関わってきました。植田教授に条例制定の経過や特徴などについて寄稿いただきました。

 東京都新宿区は、都庁や有名百貨店が多数立地する地域を有する人口約32万人の自治体です。新宿区では、2009年秋に発足した「(仮称)新宿区産業振興基本条例に関する懇談会」による1年以上の討議を経て、2011年3月に「新宿区産業振興基本条例」が成立しました。

 懇談会は、学識経験者、東京同友会新宿支部をはじめとした産業経済団体、金融機関、公募委員などで構成され、私が会長を務めました。条例では、新宿のまちにとって重要な存在である産業と中小企業などが、環境が厳しさを増している中で、「社会的経済的状況の変化に対応できる創造力のある産業やその担い手を育成」する必要が強調されています。そのため「活力ある産業が芽吹くまち」の実現を区民、事業者、商店会等、産業経済団体、金融機関、そして区が一体となって進めていくことが述べられています。

条例制定過程の特徴

 懇談会での条例制定に向けての議論では、次の点が特徴的でした。

 第1に、条例制定の意義を明確にしたことです。今回の条例制定は、区長の発案で進められましたが、なぜ新宿に条例が必要なのか、新宿のどういった状況に対応するために条例が必要なのか、について時間をかけて、資料を活用しながら議論を行いました。新宿は、華やかに見える一方で、事業所数の減少、商店街の空き店舗の増加が進んでいること、創業が以前ほど活発でなくなっていることへの対応が必要であることが示され、条例がこうした問題を解決していく上で重要だという認識を共有してきました。また、新宿の特徴である外国人が多数住んでいること(100カ国以上から3・3万人)や学校、特に専門学校が多いことなどについても、今後の新宿を考えていく上で重要な条件となることが指摘されてきました。

 第2に、区内の産業や中小企業が抱えている課題についても、懇談会メンバーの企業や業界などの視点から検討していきました。産業や中小企業が変化に対応していくために必要な課題を検討し、課題を追求していくために必要なこと、必要な支援とはどのようなものなのか、を議論することで、条例によって具体化される施策や中小企業の新たな展開がイメージできることになります。また、懇談会に参加したメンバーの間で新たなネットワークが生まれ、ネットワークから新しい動きが見られるようになったことも大切なことでした。

 第3に、新宿らしさをどのように条例に取り込むのか、です。既存の他地域の条例を参考にしながら、最終的には、前文において懇談会で議論された内容を盛り込んだこと、本文でも産業経済団体に教育研究機関を含めたこと、事業者の役割を強調したこと、産業振興会議の設置、などの点で特徴を持たせました。

 第4に、条例によって何が変わるのか、について議論してきたことです。条例制定後に条例を施策にどのように反映させていくのかが、実は最も重要な点です。条例制定も大変ですが、実際に条例をどのように具体化するのか、条例制定によってどういった変化を起こしていくのか、が大事です。この点については、突っ込んだ議論は必ずしもできませんでしたが、条例後の対応が重要であること、単なるお飾りにしないことについては認識が共有できたと思っています。

内容と効果あるものにするために

 条例を本当に内容と効果あるものにするためには、制定のための懇談会での徹底的な議論がまず重要です。同時に、同友会支部などが議論の過程を重視し、支部でも並行的に学習会や意見交換を行うなど、関心が周囲で高まっていくことが必要です。新宿では、東京同友会新宿支部の学習会に私と区役所の方が参加し、意見交換を行いました。

 今後、新宿では条例を具体化するための作業が、新たに発足する産業振興会議を中心に進められていきます。条例の具体化が進み、今後の新宿の産業と中小企業の展開に効果を発揮していくよう期待しています。

新宿区産業振興基本条例前文

 新宿のまちは、先進性を持つ国際色あふれるにぎやかな姿を見せる一方で、歴史と伝統が息づく緑豊かなやすらぎのある姿を見せる個性豊かな都市として発展を遂げてきた。暮らしの場、働く場、学びの場、集いの場として多くの人々が行き交う中で、多種多様な価値や文化を受け入れ、活力ある産業を育み、その魅力を向上させてきた。

 産業は、私たちの生活と地域社会に密接な関わりを持つものである。産業は、私たちの生活に必要とされる様々な物やサービスを提供するとともに、それらの物やサービスの循環を通じて新たな物やサービスを生み出し、地域ににぎわいと豊かさをもたらし、私たちの生活を向上させ、地域社会を発展させてきた。

 私たちは、新宿のまちにおいて産業が果たす役割が、将来においても変わることなく重要なものであると確信する。

 しかしながら、新宿のまちを取り巻く環境は日々目まぐるしく変化し、社会構造の変化や生活様式の多様化により、中小企業者を始めとする事業者や商店街の活力を維持向上させるための環境は厳しさを増している。このような環境の改善に向けた取組を一層充実させるとともに、社会経済状況の変化に適応することができる創造力のある産業やその担い手を育成する必要性が生じている。

 こうした事態に対処するためには、区民、事業者、商店会、産業経済団体、金融機関、教育研究機関及び新宿区その他産業に関わるすべてのものが、それぞれの役割を自覚し、一体となって「活力ある産業が芽吹くまち」の実現を目指し、それによって産業の振興を推進していく必要がある。

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