<< 中同協・各地の活動の目次に戻る印刷用画面 >>

【11.12.06】地域の中小企業を主役とした復興を〜中小企業憲章・条例推進本部正副本部長被災地東北3県を訪問【中同協】

 中同協・中小企業憲章・条例推進本部の正副本部長と事務局は、東日本大震災の被災地東北3県を訪問し、地元同友会の役員と懇談しました。10月11〜12日に岩手県と宮城県、10月31日〜11月1日には福島県の南相馬市といわき市を訪問。延べ約40名の同友会役員と懇談し、被災地の問題点を探り、支援の課題を考えました。ここでは、訪問・視察の様子と今後の課題を報告します。なお、福島県の訪問には、駒澤大学の吉田敬一教授、神奈川大学の大林弘道教授、東京農業大学の小松善雄教授にご同行いただきました。

中同協政策局長 瓜田 靖

震災直後から応急対策で活躍

 懇談では、(1)震災後から現在まで、どのように経営を進めてきたか、(2)行政の対応で感じること、(3)全国の同友会・中同協に期待すること、を質問項目として論議を深めました。

 まず、「さすが同友会企業!」と強く印象付けられたのは、3月11日の震災の直後から地元企業の特徴を生かして応急対応・復旧に奮闘してきたことです。土木機械を保有していた建設関連業の会員企業は、悲惨な状況の中で啓開活動(道路の障害物を除去し通れるようにすること)、がれき撤去、救助活動に取り組みました。また、本紙でも紹介した陸前高田の高田自動車学校を中心に避難所のニーズを把握した救援物資の配送ルートを作っていったお話も記憶に新しいところです。さらに、大手流通などが閉店状態の中で、会員の地元食品スーパーが地域で唯一店舗を開け続け地域住民の「命綱」となって信頼を獲得している様子も視察させていただき、とても誇らしく感じました。

 地域に密着した中小企業ならではの小回り性を発揮し、震災の中で中小企業の存在意義を際立たせたことは貴重な教訓です。

大企業に地元の仕事が流れていく仕組みの改善を

 しかし、宮城県沿岸部のように大津波でほとんどの会員が直接被害を被っているところでは、2〜3割の会員が事業再開に動いていないという実態があります。しかも、「復旧・復興ではだんだん大企業が出てきている感じだ」という声を3県いずれでも聞きました。

 政府はプレハブ協会と協定を結んでいたということで、仮設住宅の建設をプレ協の大手ハウスメーカーに丸投げ。「大手ばかりでおかしいじゃなか」という声が出始めて中小企業にも多少仕事が回ってきたとのこと。仮設店舗・工場の建設でも、発注元の中小企業基盤整備機構を訪問し、中小企業憲章の冊子を示して「地元中小建設業に仕事を回す」ように要請。その後、地元企業限定の仕事が生まれ、「やっと風穴が開いた」というお話に勇気が湧いてくる思いがしました。

 福島県では、原子力研究開発機構の除染実証業務等では委託先はもう決まっており、中小企業の出る幕ではなく、せいぜい地元の労務提供ぐらいしかないという発言もありました。

 一方、宮城県東松島市のように震災以前から建設業協会と防災協定が結ばれており、がれき処理・解体はすべて地元企業が受注していることは注目されます。

 今年度の中同協総会議案にある「復興にあたっても地域の主役は中小企業です。被災地の産業連関・経済循環の再建を重視し、公共事業や物品調達においても、地域の雇用維持・創出と復興需要を高める効果をもつ地元中小企業への発注を優先するなど特段の配慮が求められています」という中小企業憲章に則った主張をしていくことの必要性を改めて実感しました。

行政の対応の遅さや硬直した姿勢への批判

 今回の懇談では、政府から地元自治体に至るまで行政の対応の遅さや画一的な姿勢に対する批判が共通した話題となりました。

 1つは、復旧・復興活動を妨げるタテ割行政の弊害が現れたり、自治体が中央官庁の判断を待って対応する「待ちの姿勢」に終始し、行政対応の遅れが目立ったことです。タテ割行政では例えば、がれき処理では、田んぼのがれきは農林水産省の管轄で、それ以外は国土交通省の管轄、最終処分は環境省の管轄となります。福島では、原発事故の対応などは経済産業省で、放射能の健康被害に関しては厚生労働省、放射線量の測定や原子力損害の範囲・賠償などでは文部科学省の管轄という笑えない指摘も。

 2つ目には、地域ごとの実情や住民ニーズ、中小企業の早期再建を斟酌(しんしゃく)して諸施策や復興プランを進める必要がありますが、行政の一律な対応や硬直した姿勢が問題となっていることです。例えば、仮設住宅を建てても、高齢者にとって買い物や病院通いに不便な立地であることから空き室になっている例が目立つそうです。また、仮設でなく、初めから公営住宅とした方が合理的だという地元の意見は反映されていません。

 さらに、防潮堤の必要性の是非を問うなど長期的展望から復興プランを検討することなども喫緊の課題になっています。要は、地元の裁量で復旧・復興できる仕組みと使途を限定しない十分な資金・交付金を確保することが必要となっていますが、そこが現状ではないがしろにされています。

復興特需の後の反動に備えた経営力と地域力の強化を

 事業再開のための資金手当てや二重ローン問題の解決などが十分対応されていないため、資金力の弱い企業から脱落しつつあるという状況も指摘されました。被災地では事業再開ができない企業が多数存在していますが、「あきらめ型廃業・倒産」が多発する可能性があります。

 また、「自立できる企業や人と自立できない企業や人の格差が拡大し、地域が二極化していくのでは」といった懸念も出されました。特に、家業的企業や自営業が地域に存在できなくなるという危惧は深刻。ますます脆弱な地域経済に追い込められる可能性があります。

 震災の大津波では、第1波よりも第2波の津波の衝撃が強く、すべてを破壊し、さらっていきました。「それを経済状況に当てはめると、今の状況はまだ第1波目だ。2〜3年以内に『第2波』がやってくる。その時に耐えられ、仲間と負けずにやっていける力をつくっていきたい。同友会の中で腹を割って話せる関係をつくっていきたい」という発言に危機に対する認識の深さと同友会会員の頼もしさを感じました。

 今回の訪問では、宿泊のホテルを確保することが大変でした。全国から復興支援などで人が被災地に集まっているからです。現在、被災地の経済は「活況」を呈しています。しかし、それに依存していては経営の舵取りを誤ります。「復興特需」後の反動、経済的津波の「第2波」に耐え、新しい企業展開ができる力を今から蓄えなければなりません。そして、地域経済の産業連関をつなぎ合わせ、地元で資金が循環する仕組みをつくり、復興需要に依存した経済から脱却する必要もあります。

 同行した大学の先生方からは、「復興のあり方が日本経済のあり方を決める。同友会に地域の灯台になってほしい」という助言があり、今後の地域経済、復興プランなどについて活発な議論をし、深めました。

 大震災に際し、多くの同友会会員は雇用を守るメッセージを発し、社員と共に危機を突破しようという「労使見解」の精神に則って対応し、地域で復興の旗印を掲げる存在となっていることも改めて確認できました。厳しい状況の中でも、「会員は増えている」という報告に大いに励まされる被災地訪問となりました。

<< 中同協・各地の活動の目次に戻る印刷用画面 >>

同友ネットに戻る