多様な人的ネットワークを活かして取得~震災前と同規模の製造工場を再建 岩手工業(株)社長 熊谷 孝嘉氏

甚大被害からの事業債権とグループ補助金-その意義と課題(岩手)(下)

 東日本大震災により被災した中小企業の事業再建の支援施策の1つであるグループ補助金の意義と課題を岩手同友会の会員企業の事例から考える連載の2回目です。
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取材・中平智之(中同協事務局員)

 岩手工業(株)(熊谷孝嘉社長、岩手同友会会員)は大船渡市の海岸近くにあったため、工場設備は全壊しました。

 同社は工業用・医療用ガスの製造が事業の柱です。

 とても営業できる状態ではなかったものの病院からの医療用ガスの供給依頼を無視できません。被災を免れた社員が入れ替わり立ち替わり、内陸の同業者のもとに車を走らせて調達しました。知識と資格を必要とする業務のため、誰でもよいというわけにはいきません。地域医療に関わる使命感を持ってリレーをつなぎました。

 製造工場を本格的に復旧できたのは震災から1年が経った2012年3月です。メイン銀行と政府系金融機関の既存債務返済を1年間止めて新しいローンを組む形での資金繰りでした。既存債務の買取を希望したものの「買取の条件に合わない」との理由で申請は受理されませんでした。

 グループ補助金の取得が課題となり、医療ガスを病院に供給するグループで申請しましたが採択されませんでした。「経産省の想定するストーリーにうまくかみ合っていないのだろうか」と暗中模索の思いでした。意気消沈することもありましたが、大船渡の経営者仲間の「お前も再建するんだろう。俺もやるぞ」という連帯意識に支えられました。

グループ補助金の意義と課題

 どうしたら取得できるのか悩んでいた時、金融機関が主催する相談会で紹介された方からアドバイスを受けました。また別ルートで既知の先輩に相談したところ「この企業とグループを組めないか」と薦められました。こうして立ち上がった建設・鉄工・港湾に関するグループで申請書の書き方を研究し、行政マンからの助言も受けて取り組んだことが功を奏して採択につながりました。

 工場を再建する際、震災前より縮小した事業内容にしてはどうかという周囲の声もありました。しかし、自社生産せずに内陸からガスを仕入れるには約2時間半かかります。地域の病院や鉄工所の需要に即応するためにも生産工場が必要だという思いが熊谷氏にはありました。また創業した祖父の原点を思い、震災前と同設備で復旧することを決意しました。

 熊谷氏はグループ補助金を取得できなくても事業再建する決意でしたが、「グループ補助金を取得できたからこそ前向きな設備投資ができた」と振り返ります。

 一方で課題も指摘します。業務多忙の最中、膨大な資料作成のために専務を専属させるのは痛手だったこと、2011年7月に採択されたものの11月末の設備投資の支払いに間に合わず、結局、金融機関からの借入が必要となってしまいました。こうした状況から熊谷氏は「行政も大変なのは理解できるが、もっとスピーディーな対応をしてもらえたらありがたい」と話します。またグループ補助金については漁業や水産加工業関係ではさまざまな政治バイアスが働いていた一方で、同社のようなガス関係業界には何もなく、業種ごとに応対が異なっていたことも指摘しました。

会社概要

創業 1963年
資本金 1000万円
事業内容 一般高圧ガス製造・販売業、工業用・医療用ガス、溶接材料、機械工具、工業薬品
従業員数 25名
所在地 岩手県大船渡市盛町字田中島

「中小企業家しんぶん」 2013年 4月 5日号より